前回の記事では、令和8年度キャリアアップ助成金の主な改正内容について解説しました。
その中でも企業型確定拠出年金(企業型DC)を提案している立場から注目したいのが、企業型DCとキャリアアップ助成金との関係です。
従来は、企業型DCを退職金制度として活用しながら正社員化コースを利用するケースも見られました。しかし令和8年度Q&Aでは、生涯設計手当や選択制企業型DCの取扱いが見直され、令和8年10月以降に実施する正社員転換については、選択制DCの掛金運用額を賃金増額要件の計算に含めることができなくなります。
この変更により、企業型DCを活用した助成金戦略は大きな転換点を迎えています。
今回は、企業型DC導入を検討している企業がキャリアアップ助成金をどのように活用すべきかを解説します。
目次
正社員化コースでの活用が難しくなった理由
キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、非正規社員を正社員へ転換した際、
- 正社員定義を満たしていること
- 転換後の賃金が3%以上増額していること
が求められます。
企業型DCについては現在でも退職金制度として認められています。しかし問題となるのは「3%以上増額要件」です。
令和8年度Q&Aでは、選択制企業型DCの掛金運用額は労働基準法上および雇用保険法上の賃金ではないことから、3%増額要件の算定対象外とする取扱いへ変更されました。令和8年10月1日以降の転換から適用されます。
つまり、
「生涯設計手当を導入した」
「企業型DCへ拠出する額を増やした」
というだけでは賃金増額として評価されないということになりました。(2026年10月1日以降申請に関して。詳細は下記参照)
参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース以外)Q&A」P44 Q-6
生涯設計手当だけでは増額要件を満たせない
具体例を挙げてみます。
転換前
・基本給25万円
転換後
・基本給25万円
・上記の一部を減額して生涯設計手当5万円を新設
・上記手当から企業型DCへ2万円拠出
というケースを考えてみます。
実質的には従業員の所得税・住民税が下がったり、社会保険料軽減の可能性はありますので、従業員メリットはあります。
ただ助成金上は企業型DCへの掛金運用額は賃金として扱われません。また掛金運用額とし選択せず、賃金と併せて受け取った3万円に関しても従業員本人の選択等により変動することが一般的のため、その内訳の変更のみによって3%以上増額要件の達成・未達成が左右されることを防ぐという主旨で生涯設計手当を除外した上で、賃金を計算することとなりました。
そのため、企業型DC導入=正社員化コース活用、という考え方は今後見直しが必要になるでしょう。
選択制DCは助成金目的で導入する制度ではない
もちろん先述の通り、選択制DC自体の価値がなくなるわけではありません。
・所得税、住民税軽減
・社会保険料軽減
・老後資産形成
・福利厚生強化
といった従業員にとってのメリットは引き続き大きな魅力です。
しかし助成金活用という観点だけで見ると、正社員化コースとの相性は以前より低下したと言えます。
今後は「福利厚生制度として企業型DCを導入する」と「助成金を活用する」を切り分けて考える必要があります。
今後、助成金で企業型DCを活用するなら「賞与・退職金制度導入コース」を検討
そこで注目したいのが「賞与・退職金制度導入コース」です。
このコースは、有期雇用労働者等に対して新たに賞与制度または退職金制度を導入した場合に活用できる助成金です。
企業型DCは退職金制度として位置付けることができるため、このコースとの親和性が非常に高い制度です。
なぜ企業型DCと相性が良いのか
賞与・退職金制度導入コースでは、
・新たに退職金制度を導入すること
・有期雇用労働者等を対象とすること
・実際に掛金拠出を行うこと
が求められます。
企業型DCは制度導入の事実や掛金拠出実績を客観的に証明しやすく、助成金との相性が良い制度です。
特に中小企業では、
「退職金制度を作りたいが退職金原資を社内に積み立てたくない」
というニーズが多くあります。
企業型DCであれば社外積立となるため、将来の退職金債務を抱えにくいというメリットもあります。
導入時に注意したいポイント
ただし、企業型DCを導入すれば自動的に助成対象になるわけではありません。
主な注意点として、
・就業規則や退職金規程の整備
・制度対象者の設定
・掛金額の設定
・導入時期と計画届の管理
が挙げられます。
特に重要なのは対象範囲です。制度は一部社員のみではなく、有期雇用労働者等全体を対象とする必要があります。
また、事業主負担による掛金として、月額3,000円以上、または6か月合計18,000円以上の積立実績が必要になります。
参照:厚生労働省「キャリアップ助成金のご案内(令和8年度版)(パンフレット)」P50~P53
企業型DC導入は、助成金ありきではなく制度設計ありき
ここで企業型DCを導入する上での本来の目的を再確認しておきましょう。
・従業員の老後資産形成
・採用力向上
・定着率向上
・役員退職金対策
などを目的として導入する制度です。助成金はその導入を後押しする手段であって、目的ではありません。
だからこそ自社にとって最善の制度設計を最優先に考え、その結果として活用できる助成金があれば選ぶという順番が重要になります。
令和8年度の改正を踏まえると今後企業型DCを活用したキャリアアップ助成金を活用する場合は「正社員化コース」よりも「賞与・退職金制度導入コース」を前提に検討することとなるでしょう。
制度導入と助成金活用を同時に検討されている企業様は、導入前の段階で専門家へ相談することをお勧めします。




