養老保険を見直し、中退共と企業型DCの併用で退職金制度を再構築
①相談内容
・従来から養老保険と中小企業退職金共済(中退共)を活用して、従業員の退職金を準備していた。
・しかし予定利率などを踏まえると従来の仕組みだけでは将来に向けて十分な退職金を準備することが難しいと感じており、退職金制度全体を見直したいという課題があった。
・一族経営の企業で先代から事業を引き継ぐ後継者が若くして役員に就任しており、自身も将来に向けた資産形成に積極的に取り組んでいた。そのため、従業員にも将来の資産形成について真剣に考えてほしいという思いがあった。
・顧問税理士から企業型DCの説明を受けたことをきっかけに、従来の退職金制度に企業型DCを組み合わせる方法について検討することとなった。
②争点
・これまで利用してきた養老保険・中退共による退職金準備をどのように見直し、従業員にとってより有効な退職金制度を構築するかが大きなポイントとなった。
・企業型DCを導入する場合でも全てを従業員本人の選択に委ねるのではなく、会社として一定額の退職金を確実に準備できる仕組みを残したいという考えがあった。
・一方で将来の資産形成を積極的に行いたい従業員については、本人の希望に応じて掛金を増やせる仕組みも必要であった。
・また転職者の中には前職で企業型DCに加入していた従業員やiDeCoに加入している従業員も増えており、単に退職金制度を整備するだけではなく、従業員全体の金融・経済に関する知識や資産形成への意識を高めていくことも課題となった。
③解決内容
・従来利用していた養老保険を解約、中退共は継続しながら新たに企業型DCを導入することで退職金制度を再構築した。
・企業型DCについては会社が全加入者に毎月一律5,000円を拠出する「基本給付金」と従業員本人が希望に応じて最大50,000円まで選択できる「加算給付金」を組み合わせた、いわゆる「A+B」の制度設計とした。
・基本給付金を設けることで従業員本人の選択にかかわらず全員が企業型DCに加入する仕組みとし、会社として従業員の退職後の資産形成を支援できる制度とした。
・その上で更に積極的に資産形成を行いたい従業員については選択制の加算給付金を利用することで、それぞれのライフプランや資産形成に対する考え方に応じて掛金額を選択できる仕組みとした。
・資格喪失年齢は60歳、中退共と企業型DCを併用することで、それぞれの制度の特徴を活かしながら退職金を準備する制度設計とした。
・制度導入にあたっては従業員説明会にも積極的に取り組み、企業型DCの仕組みだけでなく、資産運用や長期的な資産形成について従業員が考える機会を設けた。
④社労士所感
今回の事例では、これまで利用してきた退職金制度を全て廃止して企業型DCに切り替えるのではなく、中退共を残しながら企業型DCを組み合わせることで、新たな退職金制度を構築したことが大きなポイントです。
・退職金制度は一度導入すればそのままでよいというものではありません。企業を取り巻く環境や従業員構成、経営者の考え方などの変化に応じて「現在の制度が自社に合っているのか」を定期的に検討することも重要です。
・今回のように会社が一定額を拠出する「基本給付金」と、従業員本人が掛金額を選択できる「加算給付金」を組み合わせることで「会社として全従業員の退職金を準備する」という考え方と「従業員自身による資産形成」の両方を制度に取り入れることができます。
・特に前職で企業型DCに加入していた従業員やiDeCoを利用している従業員が増える中、企業型DCに対する関心や知識には従業員ごとの差があります。そのため制度を導入するだけでなく、従業員が制度の内容や資産運用について理解する機会を設けることも重要です。
今回の企業では後継者である若い役員自身が資産形成に高い関心を持ち、「従業員にも将来について真剣に考えてほしい」という思いを持っていたことが、制度見直しの大きなきっかけとなりました。
企業型DCは、単に退職金を準備するためだけの制度ではありません。従業員が自分自身の老後や資産形成について考えるきっかけをつくるという点でも、大きな意味があります。
今後は、従業員説明会や継続的な投資教育などを通じて金融・経済に関する理解を深め、企業型DCを「導入して終わり」にするのではなく、従業員一人ひとりが将来の資産形成について考えられる制度として育てていくことが期待されます。




