企業型確定拠出年金(企業型DC)を始めた方から、よく聞かれる質問があります。
「企業型DCって、実際どのくらい増えるものなんですか?」
毎月2万円を積み立てている人なら、10年後、20年後、そして60歳になったときに、いくらになっているのでしょうか。実はこの質問に「○○万円です」と一律に答えることはできません。企業型DCは、毎月の掛金を積み立てるだけの制度ではなく、加入者自身が運用商品を選び、その運用結果によって将来受け取れる金額が変わる制度だからです。
同じ毎月2万円を積み立てていたとしても、AさんとBさんでは、60歳時点の資産額が大きく違っている可能性があります。
そこで今回は、企業型DCの「平均利回り」を一つの目安にしながら、「どのくらいの運用成果を目指せばよいのか」「運用商品をどう考えればよいのか」「なぜ長期運用が重要なのか」そして、企業型DCを上手に活用するために知っておきたいポイントについて解説します。
下記の動画でも詳しくご紹介していますのでご参照ください。
【知らないとヤバい】同じ2万円でも60歳で格差!? 企業型DCで「増える人・増えない人」の違い

目次
同じ掛金でも将来受け取る金額は同じではない
企業型DCでは会社が制度を用意し、毎月一定の掛金を加入者ごとの口座に積み立てていきます。しかしその後の運用は加入者自身が行います。
そのため同じ会社で、同じ年齢で、同じ毎月2万円を積み立てている人でも、将来の資産額が同じになるとは限りません。
なぜなら最終的な運用成果には下記のように様々な要素が影響するからです。
・毎月の掛金
・運用した期間/時期
・選択した運用商品
・資産配分
例えば、5年間運用する人と30年間運用する人では、当然結果が違います。また同じ20年間でも「いつからいつまで運用したのか」によって、その期間の株式市場や経済環境も異なります。更に元本確保型の商品を中心に運用する人と、国内外の株式を中心とした投資信託で運用する人でも結果は変わってきます。
だからこそ企業型DCでは単に「加入しているから安心」と考えるのではなく、自分のお金が現在どのように運用されているのかを確認することが大切なのです。
まず知っておきたい「平均利回り」
では、これから企業型DCを始める人は何%くらいの利回りを目標にすればよいのでしょうか。
その参考になるのが企業型DC全体の「平均利回り」です。平均利回りを見ることで「世の中ではどのくらいの運用成果になっているのか」
という一つの基準を知ることができます。もちろん平均は、あくまで平均です。平均より高い運用成果を出している人もいれば、低い人もいます。大切なのは平均利回りを「これだけ増えることが保証されている数字」と考えるのではなく、自分の運用状況を考えるための一つの物差しとして使うことです。
企業年金連合会が公表している「確定拠出年金実態調査結果」(下記の表)によれば、2001年の制度開始から2024年度の平均利回りは4.7%となっています。まずはこれを参考に「平均程度を目指すのか」「それより高い成果を目指すのか」「もう少し低くても自分の目標を達成できるのか」を考えていくこととなります。ちなみに弊社も取り扱っているSBIベネフィット・システムズ社の主要プランでは運用利回り5%以上の方が加入者の40%、運用利回り10%の方が加入者の20%いるという現状もあります。
ここで注意したいのは資産形成では、利回りが高ければ高いほどよいというものでもありません。高いリターンを期待できる商品ほど、価格変動も大きくなる傾向があります。自分が何歳で、あと何年間運用できるのか。60歳までにどの程度の資産をつくりたいのか。そうしたゴールから逆算して考えることが重要です。

企業型DCには「長期」と「積立」が最初から組み込まれている
投資の基本として、よく使われる言葉があります。「長期・積立・分散」です。
企業型DCは実はこの3つを実践しやすい制度になっています。
まず「長期」です。企業型DCは原則として60歳になるまで資産を引き出すことができません。一見すると不便に感じるかもしれませんが、資産形成という視点では、簡単に引き出せないことによって長期運用を続けやすい仕組みになっています。
次が「積立」です。企業型DCでは、毎月一定額を積み立てながら運用していきます。一度に大きなお金を投資するのではなく、毎月少しずつ投資していく仕組みが最初から制度の中に組み込まれているのです。
つまり、投資の基本である3原則のうち、「長期」と「積立」は企業型DCを利用することで、ある程度自動的に実践できます。
では残る一つは何でしょうか。それが「分散」です。
DC活用のポイントは「分散」をどう考えるか
企業型DCでは、複数の運用商品の中から加入者自身が商品を選択します。制度によって商品数は異なりますが、元原稿の例では約40本の商品が用意されており、その中から自分で選ぶ形になっています。イメージとしてはバイキングに近いかもしれません。
たくさん並んでいる料理の中から、自分が好きなものを選ぶ。一つの商品だけを選ぶこともできますし、複数の商品に分けることもできます。
そして、この「何をどのくらい選ぶのか」によって、将来の運用成果が変わってきます。
企業型DCの運用商品を大きく分けると「元本確保型」と「元本変動型」があります。
元本確保型には定期預金や保険商品などがあり、元本割れを避けたい人にとって選択肢となります。
一方、元本変動型には投資信託などがあり、価格が上下する可能性がある代わりに、長期間の運用によって資産の成長を期待できます。
ここで重要なのは、「どちらが正解」ということではありません。年齢や運用期間、リスクに対する考え方などによって、適した選択は変わります。例えば60歳まで30年以上ある人と、あと数年で受給時期を迎える人では、同じ商品構成である必要はありません。

「パッシブ」と「アクティブ」は何が違う?
元本変動型の商品を見ていくと、更に「パッシブ運用」「アクティブ運用」といった分類があります。パッシブ運用とは、日経平均株価やS&P500など、一定の指数に連動する運用成果を目指す方法です。市場全体の値動きに合わせて運用していくイメージです。
一方アクティブ運用では、ファンドマネージャーなどの専門家が銘柄を選択し、市場平均を上回る成果を目指します。ただし、アクティブ運用だから必ずパッシブ運用より高い利益が得られるわけではありません。
あくまでアクティブとパッシブは運用の「方向性」の違いであって、最終的にどちらが良い結果になるかは別の問題ではあります。
更に具体的な商品を分類していくと下記の様に区分されます。国内と海外を合わせた「内外」と言うのもあります。
・国内株式/海外株式
・国内債券/海外債券
・バランス型/ターゲット型
「バランス型」は株式と債券など複数の資産を組み合わせた商品です。また国内外の様々な企業の株式に投資する商品であれば、一つの商品を購入するだけでも、ある程度の分散投資が可能になります。
このように、企業型DCの商品選びでは、「商品名を見る」のではなく、「その商品が何に投資しているのか」を確認することが重要です。

単年の運用結果だけで判断しない
投資を始めると、どうしても気になるのが「今年は何%増えたのか」という数字です。しかし企業型DCは数十年間にわたって運用することも珍しくありません。そのため1年間だけの運用結果で良し悪しを判断するのは適切ではありません。
2014年度から2023年度までの10年間について、企業型DCの単年度ごとの平均利回りを確認していくと、プラスの年もあればマイナスの年もあり、年度によってかなり大きな幅があります。(詳細は下記動画で確認できます。)
・企業型DC活用術
ここが投資の重要なポイントです。投資は毎年同じように増えるわけではありません。良い年もあれば悪い年もあります。だからこそ短期間の結果だけを見て「今年下がったから投資は怖い」「今年大きく上がったから、もっと投資しよう」と判断するのではなく、長期的な視点を持つことが重要になります。
コロナ禍から分かる「短期の数字に振り回されない」ことの大切さ
その象徴的な例が「コロナ禍」です。
2019年度は、対象が2019年4月~2020年3月となっています。この年度末にかけて新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し、経済や金融市場にも大きな影響が生じた、いわゆるパンデミックが起こっていたことは記憶に新しいことと思います。
その後は各国による劇的な金融緩和が行なわれたり、あらゆる金融・経済対策が打たれたことを要因として市場環境が大きく変化しました。
ここから分かるのは、「その年の運用結果には、その年特有の経済環境が大きく影響する」ということです。
企業型DCは老後資金をつくるための長期的な制度です。直近1年間の数字だけで判断するのではなく長い時間軸で運用を考えることが重要です。
長期運用で大きな力を発揮する「複利」
そして長期運用を考えるうえで欠かせないのが「複利」です。複利とは、運用によって得られた利益を再び運用することで、「元本+利益」がさらに利益を生み出していく仕組みです。最初の10年間では、積み立てた240万円に対して、運用によって増えた金額は約70万円。ところが20年目になると累計掛金480万円に対して、運用による増加額は約335万円まで大きくなっています。
なぜ後半になるほど増え方が大きくなるのでしょうか。それまで積み立ててきた元本だけではなく、過去の運用によって増えたお金も一緒に働き始めるからです。これが複利の力です。
企業型DCは数十年間という長い時間を使って積み立てる制度です。そのため複利との相性が非常に良い制度といえます。重要なのは「毎年5%必ず増える」という意味ではないことです。
実際の利回りは毎年変動します。しかし長い時間をかけて資産形成を続けることで、複利の効果を活かせる可能性が高まっていきます。
一度商品を選んだら終わり、ではない
企業型DCを導入した際、説明会などで商品を選び、そのまま何年も確認していないという方も少なくありません。しかし運用開始時に適していた資産配分が、10年後も自分に適しているとは限りません。年齢も変わります。残りの運用期間も短くなります。家族構成や収入なども変化するかもしれません。
そこで重要になるのが、定期的な運用状況の確認です。
まず「自分はいま何に投資しているのか」を確認してみましょう。元本確保型なのか、元本変動型なのか。株式が多いのか、債券が多いのか。
国内中心なのか、海外にも投資しているのか。その上で自分が目指している資産額やリスク許容度と現在の運用内容が合っているかを考えます。大切なことは「現在地を把握する」→「ゴールを決める」→「必要な手続きをする」という順番で整理していくことです。
「配分変更」と「スイッチング」も知っておこう
運用内容を見直す方法として企業型DCには「配分変更」と「スイッチング」があります。
・配分変更:これから積み立てる掛金をどの商品に振り分けるかを変更すること。
・スイッチング:すでに積み立てている資産の商品を売却し、別の商品へ預け替えること。
似ていますが意味は異なります。運用状況や自分の年齢、目標などに応じて、こうした方法を利用しながら資産配分を見直すことができます。
ただし利回りを上げたいからといって、単純に値動きの大きな商品へ変更すればよいわけではありません。期待できるリターンが高くなれば、一般的には価格変動のリスクも大きくなります。「どのくらい増やしたいのか」と「どのくらいの値下がりまで許容できるのか」をセットで考えることが大切です。
まとめ 企業型DCは「入った後」が大切
企業型DCは加入しただけで資産が自動的に大きく増えていく制度ではありません。一方で投資初心者が長期的な資産形成を始めるには、非常に使いやすい仕組みを持っています。投資の基本とされる「長期・積立・分散」のうち「長期」と「積立」は制度の仕組みそのものに組み込まれています。そして残る「分散」をどうするのか。
ここが加入者自身で考える重要なポイントです。元原稿でも、企業型DCは投資初心者でも始めやすく、「長期」と「積立」は仕組みに入っている一方「分散」は自身で考える部分だとまとめています。まずは一度、ご自身の企業型DCの画面を開いてみてください。
現在の資産はいくらになっているでしょうか。これまでの利回りは何%でしょうか。どんな商品を選んでいるでしょうか。そして、その運用方法を選んだ理由を説明できるでしょうか。
企業型DCは20年、30年という長い時間を使って資産形成できる制度です。だからこそ、短期的な値動きに一喜一憂するのではなく、自分の現在地と目標を確認しながら、長期的な視点で運用していくことが大切です。「会社が企業型DCを導入してくれたから終わり」ではなく、そこからどう活用するか。それによって将来受け取る資産額には大きな違いが生まれる可能性があります。
企業型DCを自分自身で将来の資産を育てていくための仕組みとして、上手に活用していきましょう。




